西洋占星術のルーツ
今の日本で占星術を探すと色々出てくる。インド占星術やマヤ占星術、はては密教占星術なども紹介されている。これほど多くあるとルーツがよくわからないものもあるかと思うが、西洋占星術に関しては比較的よくわかっている。メソポタミアで生まれた占星術が古代ギリシャに伝わり、それがヘレニズム世界に広がり発展していく中でその原型ができあがったらしい。古代エジプトには独自の星占いがあり、メソポタミアよりさらに古い文書があるようだが、西洋占星術と比べると方法論が全く違うので両者は関係ないと思われている。
西洋占星術の原型
エジプト独自の占星術が西洋占星術に影響を与えなかったとしても、エジプトのアレキサンドリアはヘレニズム世界の一大学問都市であり、ここで占星術も大いに発展した。今から1900年ほど前にこの街で活躍したクラウディウス・プトレマイオスの功績は特に大きく、占星術に多大なる影響を与えた。
彼の主著である『アルマゲスト』は占星術書というより天文学書で、近世になるまで西洋世界の天文学はこの書物を基盤にしていたといえる。たとえば、プトレマイオスは天動説なのだが、地動説を唱えたとされるコペルニクスも全体を見れば『アルマゲスト』の議論をベースにしていたので惑星運動の説明はかえって複雑になってしまったらしい。地球を覆う天球を想定し、その天球上を各天体が動いているというホロスコープ(西洋占星術で使う天体を分析するチャート)のベースがここにある。
一方で、彼は『テトラビブロス』という占星術書も遺している。「テトラ」でわかるように4部仕立てであり、日本語に直訳すると『4部全書』ということになるが、原題は”Ἀποτελεσματικά”で、日本語に訳すと『影響』となる。『アルマゲスト』では天体の運行を数学的方法で示したが、こちらは天体の地上への影響を述べている。これが面白い。第2部は天文学と地理学を融合させるような内容で、例えばイギリス人、アルプスを越えたゴール人(今のフランス人)、ドイツ人は火属性の男性活動宮である牡羊座と男性的で攻撃性のある火星の影響が強いので獰猛で頑固で獣的だと主張する。彼の論評が現実に当てはまるかはさておき、和辻哲郎の『風土』を思わせる発想だ。第3部では誕生ホロスコープを見ると性別、先天的障害の有無、事故などがなかった時の寿命、体格や気質などが予想できると述べられており、人体の各臓器と天体の関係も述べられている。第4部では、ホロスコープをもとにキャリアアップの指針や結婚生活のアドバイスも語られている。
原型と現在形の差分
上記をみれば、ヘレニズム時代に西洋占星術の原型は出来ていったとわかるだろう。しかし、プトレマイオスの占星術は私たちがイメージする占星術とはまだかなり異なる。方法論で見るとプトレマイオスはハウスについてほとんど論じてない。星座とハウスをあまり区別していないように見えるのだ。また、説明原理を見るとこのころの占星術は現代人が自然科学に期待する役割を担っていたことがわかる。それでは古代に判断占星術はなかったのか?そんなことはない。占星術はこれから激しいバッシングに合うのだが、攻撃を受けるのはまずこの判断占星術の部分だからだ。